1.番号札とポケベル
調停申立て当日。
裁判所の廊下で番号札を握りしめ、ベンチに腰かける僕。
周囲はみんなスーツ姿、どこか重い空気が漂う。
そんなとき、ポケベルが震えた。
「おい、シノギ……じゃなくて“まともな仕事”、一つある」
送り主は、かつて旅打ち時代に知り合ったロス生まれの友人ベン。
そのメッセージが、僕の人生をまた別の方向へと動かしていく。
2.2000年──アメカジ全盛期
当時の日本はキムタク=アメカジの象徴。
キムタクドラマの影響もあり、リーバイス501のジーンズ、レッドウィングのブーツ、シルバーアクセが街を席巻。古着屋は“文化の発信地”であり、ファッション誌はこぞって「原宿古着通り」を特集していた。
僕自身もスロットや競馬で稼いだ金を、気づけば古着に突っ込んでいた。
「ただの布切れが、なんでこんな値段すんの?」
そう思いながらも、ヴィンテージの501XXやスタジャンに財布を開いていたのだから不思議だ。
3.ロスからのオファー
そんな熱狂のさなか、ベンのメッセージが飛び込んできた。
「ロスでは古着なんてタダ同然。半年ごとにコンテナ1台分送るから、日本で古着屋やりなよ」
話を聞けば、彼自身もロスで古着屋を始め、仕入れはほぼ“無尽蔵”。
日本に送りさえすれば、原価はほぼゼロで利益は青天井。
「これ、ギャンブルより安定してね?」
そう囁くベンの言葉に、僕は吸い寄せられるように頷いていた。
4.ギャンブルと古着屋の共通点
実際に始めてみると、古着ビジネスはギャンブルに似ていた。
- 仕入れは一括大勝負(コンテナ1台単位)
- 商品は開けてみるまで当たり外れ不明(掘り出し物か在庫の山か)
- 客の反応がすべて(流行の波に乗れば即完売、外せば赤字)
「今日はシングル50万勝ち!」
そんなスロ仲間の報告と同じノリで、僕は「501XXが1本で30万即売れ!」と叫んでいた。
5.“まともな仕事”は綱渡り
もちろん甘くはなかった。
- 家賃・光熱費 → ギャンブルの“投資金”と同じ固定出費
- 不良在庫 → スロで言う“天井までハマリ”
- 税金 → ギャンブル時代にはなかった“公式の取り立て”
調停申立ての廊下から始まった古着屋ライフは、結局「ギャンブル的現金商売」の延長線上だった。
6.教訓:服と金の価値は“文脈”次第
- アメリカでは“ゴミ”同然 → 日本では“宝”
- ギャンブルでは“数字” → 古着では“文化”
- でも、結局どちらも「人が価値を信じるかどうか」でお金が動く。
僕が掴んだのは、**「稼ぐ=人の欲望を読むこと」**という共通ルールだった。
まとめ
調停の廊下で受け取ったポケベルの震えが、僕をギャンブルから古着屋へと導いた。
だが、それは「まともな仕事」というより「別ジャンルの勝負」。
人は環境を変えても、本質的な“勝負脳”はなかなか変えられない。
次回 Ep.17──古着屋とギャンブルを掛け持ちする翔太の“二足のわらじ”は、果たして安定か、それとも破滅か。


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